この絵本の内容紹介
少年達が神社で遊んでいたとき、そのうちの一人が不思議なものを見つけました。
「おもしろいじゃん。これ、おれがもらっとくよ」
少年達のなかで一番強そうなケンジはそう言うと、さっとカバンに入れました。
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やがて日が暮れてくると、少年達はしばしのお別れ。
夜、河原で花火をする約束をして、少年達は一度家に帰ることにしました。
ところが、その夜、ケンジは道を急いでいました。花火の約束の時間に遅れてしまったのです。
「あっ!」
駆け足で先を急いでいたケンジは、神社の角を曲がった直後、突然と立ちすくんでしまいました。なんと、道の真ん中に妖怪達が……。
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「あなた、もしや大天狗さまのうちわを、お持ちではないですか?」
提灯お化けが口を開きました。
日暮れどきに神社で拾った不思議なものは、大天狗の団扇だったのです。
「そ、それ・・・・・・、いまから、か、返しにいくんです。」
突然のことに平常心を失ったケンジは、とっさにデマカセを言ってしまいました。
すると提灯お化けは、ケンジを大天狗のところまで案内すると言うのです。ケンジは逃げ出すこともできず、妖怪達に案内されるがままに、神社の奥の森の中に入っていきました。
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さっきまで聞こえていた虫の声もどこへやら。あたりはしんと静まりかえり、物音一つしません。そして、驚くほどに空気が冷たくなっていくのです。
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森の奥へ進むにつれて、道は険しくなり、鼻を突くような異臭が漂い、妖怪達の囁き声が聞こえてきます。人間が森に入ってくるのは珍しいことなので、妖怪達はあちらこちらで騒ぎ始めます。
ケンジは「あんなもの、拾わなきゃよかった」と後悔しますが、もう引き返すことはできません。
どのくらい歩いたのか分からなくなったころ、地面から根が迫り出している松の木の前に到着しました。ようやく大天狗のいるところに着いたのです。ケンジはカバンから団扇を取り出します。
すると突然、バサっと大きな羽音が聞こえ、ケンジの体が宙に浮きました。翼の生えた烏天狗が、木の上の大天狗のところにケンジを抱えながら飛んだのです。
そして大天狗は団扇を受け取ると、お礼にと不思議な力を使います。大天狗が空に向けて団扇を大きく振ると、覆っていた雲があたりに流れ、満天の星が現れました。しかも、そこから無数の流れ星が降り注ぎ、幻想的な夜空を見せてくれるのでした。
いつの間にか月が昇ったころ、妖怪達の騒ぎもいよいよ大きくなってきました。ケンジは大天狗と別れて、来た道を帰ることにします。
帰り道に決して振り向いてはいけない。鳥居を潜るまでは決して声を出しても走ってもいけない。別れ際に大天狗がケンジに忠告するのですが……。
恐ろしく、そして滑稽で、それでいて美しい妖怪達の不思議な世界を描いた絵本です。すべてのページを鉛筆で描き、光と影のコントラストで魅了します。
読み進むにつれてモノクロームの世界に引き込まれていくような、そんな錯覚を覚えることでしょう。
巻末には、絵本に登場する妖怪の解説付き。