この絵本の内容紹介
「つるの恩返し」は、動物報恩話の一つで、北は青森県から、南は奄美大島に至るまで、日本全国にわたって、古くから伝えられているお話です。そのほとんどが「鶴女房」型といって、若者に助けられたツルが嫁になり、機を織って恩返しをする、という設定になっています。また、ツルが若者の許を去ってゆく理由としては、はたばをのぞかない、という約束を若者が破ったため、というのが大部分です。ある地方の話では、機を織りつづけたために、ツルは精根つきはてて死んでしまう、といったものもあります。このように、ツルにまつわる話が数多く残された原因は、いったい何だったのでしょうか。それは、ツルという鳥が古来より人々のあいだで、どのように扱われてきたかによって、明白になりそうです。「鶴は千年、亀は万年」といわれるように、ツルは長寿のしるしとされ、目出度い鳥とされてきました。これは、現在でも変わりません。
また、ツルはその端正な容姿から、神秘的な鳥とされ、神のお使い、神の乗り物として霊鳥視されました。さらに、恩を返す鳥として、古くから保護されてきたのです。従って人々はツルを、高貴なもの、近よりがたいもの、常に縁遠いものとして考えていたわけです。この考え方が願望に変化し、いつのまにか空想の世界で、人とツルが接するようになったとしても、不思議はありません。
さて、この絵本に登場するツルは、嫁ではなく、一部の地方に伝えられる、むすめとしました。そして、おじいさんが約束を破る理由も、むすめへの好奇心や疑惑だけではなく、ツルであることの確認、というように脚色してみました。雪深い山奥にくり広げられる、幻想的で美しく、そして悲しいこの物語は、いつまでも人々の心に残りつづけることでしょう。