この絵本の内容紹介
男の子が寝ているとき、白猫が窓から入ってきて、棚に飾ってあるロボットのおもちゃを持って行ってしまいました。
そして、なぜかそのロボットのおもちゃは男の子の夢に現れます。
突然、ロボットのおもちゃは『もしものせかい』に行くことになったと男の子に告げます。
『もしものせかい』とは、男の子がいつも暮らしている世界ではなく、男の子の心の中にあるもう一つの世界。
『もしものせかい』にあるのは、男の子が出来なかったこと、ずっと一緒にいたかった人、変わってほしくなかったもの。他にも、「もしも あのとき・・・」と思い出すもの。
「もしも あれが うまくいってたら」「もしも あちらを えらんでいたら」「もしも あのひとが そばにいたら」、そんな男の子の「もしも・・・」が詰まった世界にロボットのおもちゃは行くのです。
なぜロボットのおもちゃは『もしものせかい』に行かなくてはいけないのでしょうか。なぜ男の子とロボットのおもちゃが離れ離れにならなくてはいけないのでしょうか。
ロボットのおもちゃは、その理由を考えてみたけれど、そこに理由はないようだと言います。
「たまたまそうなった」「最初から決まっていた」「誰かのせいで」、色々と考え方はありますが、一つだけ決まっているのは、ロボットのおもちゃが『もしものせかい』に行って二度と帰ってこないということ。
男の子の大事なものが『もしものせかい』に行ってしまったとき、『もしものせかい』が大きくなる代わりに『いつものせかい』が小さくなってしまうのだとロボットのおもちゃは言います。
それは生きていくのも辛いほどのことだけれど、そのうち『いつものせかい』はゆっくりと膨らんでくる、何もしなかったとしてもそうなるのだとロボットのおもちゃは言います。
また、『もしものせかい』が大きい人であればあるほど、『いつものせかい』も大きく膨らませることができるはずなのです。
成長するにつれて、誰しも何かを失ったり、後悔することが増えていくのではないでしょうか。「もしもあのとき・・・」、大人になってもそう思うことが人生の中でたくさんあるのではないでしょうか。
『いつものせかい』は、人間関係や社会的な事情など様々な理由でうまくいかないことがたくさんあります。
反対に『もしものせかい』は、『いつものせかい』では叶わないことでも際限なく想像を膨らませることができます。
このお話が『いつものせかい』と『もしものせかい』は表裏一体でどちらも大切なのだと気づかせてくれるように感じます。
『いつものせかい』しかなければ無味無臭のつまらない人間になってしまうでしょうし、『もしものせかい』しかなければ目の前のことを一歩一歩着実に努力できない人間になってしまうでしょうし、二つのバランスを整えることが大切なのでしょう。そして、その二つがどちらも大きく膨らんでいくことが何より大切なのでしょう。
単純に物語を楽しむこともできますが、哲学を楽しむこともできる素敵な絵本です。子どもだけでなく、大人が読んでも楽しいお話です。