この絵本の内容紹介
「どれ、奇跡の話をしようじゃないか。」
——上空5,000メートルの空中帝国
カンパネラ爺さんは「ちょっと奇跡に用がある」と言っては、50年も大きなラッパを作り続けていました。
大きなラッパは、工場の屋根を突き抜け、さらには空に向かって伸びていました。それでも、まだ完成には至っていませんでした……。
カンパネラ爺さんの少年時代
カンパネラ少年は、学校終わりに科学塾に通うほど、勉強熱心な子どもでした。奇跡や魔法などとは縁遠く、目に見えるものだけを信じていました。
そんなカンパネラ少年は、星空観察に夢中でした。晩ご飯もそっちのけで、望遠鏡を覗いてばかりいたのです。
ある日、遠くの『えんとつ町』から大量の煙が流れ、一部の空を覆い隠してしまいました。カンパネラ少年は、仕方がなく望遠鏡の向きを変えてみることにするのでした。
ところが、小さな事故が起こりました。留めていたネジが緩んでしまい、望遠鏡が下を向いてしまったのです。
そんなとき、カンパネラ少年はふと思いました。
「そういえば、『森』はどうなっているんだろう?」
空中帝国の5,000メートル下には、鬱蒼とした森が広がっています。カンパネラ少年は、その森が気になって、下を向いたままの望遠鏡を覗き込みました。
謎に包まれた森
——何千年も昔、人間は海から生まれ、森で暮らしていたそうです。けれども、空中帝国の住人達には信じられないことでした。悪性の細菌が充満し、人が住める環境ではないといわれていたからです。
年に数回、防護服を着た調査隊が森に降りていく……。そんな噂もありましたが、その姿を目にした人は誰もいませんでした。
謎に包まれた真実
森の観察を始めてから一週間ほど経ったある日のこと、カンパネラ少年は大変な発見をしました。
望遠鏡から人間の姿が見えたのです。カンパネラ少年と同じ年くらいの女の子で、驚いたことに防護服を着ていませんでした。
そうして森の観察を続けていると、新たな発見もありました。その女の子以外にも人間が住んでおり、そこには人間達の暮らしがあったのです。
「『森』は細菌だらけで人間はすむことができない」
空中帝国ではそのように教えられますが……現実は違いました。
これは一体どういうことなのでしょう。
人類の歴史:空中帝国と森の分断
——20年もの月日が流れ、カンパネラは30歳。
空中帝国の極秘任務として、森の地質調査を任されていました。
——カンパネラは調査隊員となったとき、人類の歴史を知ったのでした。
……700年前、人口増加に伴って、超高層ビルが立ち並びました。さらには、ビルはどんどん高くなり、やがて上層階どうしが蜘蛛の巣のようにつながっていきました。
そうして空中帝国は生まれ、一部の人間だけが森に残ることを選んだのです。
一方、空中帝国の人々は、空中帝国で生まれ、空中帝国で死んでいき……それを繰り返すうちに「人間の住む場所は、空中帝国だ」と信じて疑わなくなったのでした。
空中帝国の極秘任務:森の調査
——調査当日、調査隊は防護服を身に纏い、高速エレベーターで5,000メートル下の森へと向かいました。その隊員のなかには、カンパネラの姿もありました。
ところが、森に到着するとカンパネラは勝手に隊を飛び出し、かつて女の子を見つけた湖のほとりを目指しました。
「だれだ!」
到着してほどなく、目の前に赤毛の女が現れました。あのときの女の子です。
最初は疑いの目を向けられたものの、望遠鏡で見たことを話すと、すっかり打ち解けてしまいました。——赤毛の女の名前はヨナヨナといいました。
カンパネラとヨナヨナは、空中帝国と森の暮らしを教え合いました。そして、お互いはお互いの世界を知っていくうちに、人間の世界が二つに分断されてしまった理由を考えるようになりました。
『好き』という感情は争いの原因?
「どうやらぼくは、この『森』が好きになったよ」
このカンパネラのふとした言葉から、森の住人には『好き』という言葉がないことが判明しました。ヨナヨナは、その言葉の意味を理解できなかったのです。
「えっと……たとえなにかを犠牲にしても守りたい、というきもちのことだよ」
カンパネラは言葉を詰まらせながらも意味を伝えました。ところが、ヨナヨナから返ってきた言葉は予想外のものでした。
「じゃあ、『スキ』があるいじょう、なにかが犠牲になってしまうことがあるということね?」
ヨナヨナは『好き』という感情を捨てるべきだと考えました。一方、カンパネラは『好き』という感情を捨てられないと考えました。
こうして、世界が二つに分断されてしまった原因を、二人は少しだけ理解できたような気がするのでした……。
ピクトブック編集部の絵本談議
なんだか切なくなるね。
空中帝国の住人と森の住人がつながるのは難しそうだなぁ。
うんうん。
『好き』という感情を共有できないなんて、価値観が違いすぎるような気がするね。
そもそも、カンパネラ爺さんは大きなラッパを作ってたよね?
この物語からどうやって、その展開まで辿り着くんだろう。
うんうん。
付け加えれば、この絵本はタモリさんの発案をもとにキングコングの西野さんが物語に仕立てて描いたものなんだよね。
『宗教』や『戦争』、『生物の進化』といった難しい問題と向き合いながら完成した作品なんだ。
0.03mmのペン一本で丁寧に細部まで描かれたイラストも凄いよね!
絵本の世界観に引き込まれるようだったよ。