この絵本の内容紹介
荒れ果てた野原に、ぽつんと岩だらけの山がありました。その山には、草や木が一本も生えていません。当然、虫も動物も住んでいませんでした。
山は、太陽に照らされたり、風に吹かれることはあっても、山肌に直に触れるのは雨や雪だけ。その冷たさしか知りませんでした。
気が遠くなるほどの長い間、山は流れる雲や空ばかりを見て暮らしていました。澄みきった夜になれば、満点の星空が見えましたが、他には何一つ見えません。
そんなある日、どこからともなく一羽の小鳥がやってきました。その小鳥は、岩山の上を一回り飛んで、岩角に止まって羽を繕いました。
「そこにいるのは だれだね? 名まえを おしえてくれないか」
小鳥の爪が優しく包む感覚や柔らかい体が触れる感覚、山にとってはそのどれもが初めて感じるものでした。山は、わくわくしながら尋ねました。
「わたしは ことりよ。名まえは ジョイ。とおい島から はるばる とんできました。 まい年春になると、巣をつくり ひなをそだてる場所を さがして たびにでるの。 ここで やすませてもらったら、また でかけます」
ジョイがそう言うと、山はここにいてくれないかと尋ねました。ところが、ジョイは生き物なので、食べ物や水がなければ暮らせません。ここで暮らせない代わりに、毎年春になったら山に立ち寄ることを約束しました。
それでもジョイには寿命があります。二、三回立ち寄るのが限界です。そこで、ジョイという名前を代々引き継いで、その子ども達を山に立ち寄らせると約束しました。
山とジョイの交流は、ほんのひととき。ジョイは「らい年の春まで ごきげんよう」と言って、飛び立ちました。
それ以来、春になるたび何世代にも渡ってジョイが山に立ち寄りました。山は、ジョイが来るのを待ち焦がれ、その反面、見送るのが辛くてたまりませんでした。
ジョイが初めて立ち寄ってから百回目の春のこと。ジョイが飛び立つのを見送ると、その辛さに耐えかねて山の心臓が爆発しました。硬い岩が砕け、山の奥底から涙が吹き出したのです。
それからというもの、ジョイが立ち寄っても山は涙を流すばかり。何年も何年も涙を流し続けました。
一方でジョイは、毎年春になると山に種を一つ植えていくようになりました。何年も何年も種を植え続けます。
そうするうちに、岩山には緑が生い茂り、生き物達が住み始めました。ところが、それにも気づかず、山の涙は止まりません。
この山の悲しみに終わりは来るのでしょうか。そして、ジョイとの交流はどうなるのでしょうか。最後の展開に、心が温まります。