お買い物をするとき、お目当ての商品をどこで買われますか? 急ぎでなければ安いところで買うのではないでしょうか。

特に、家電などの高額商品は価格を比較して決めますよね。近年では、実店舗で商品を確認してからネットショップで買う、という方も多いと思います。販売店によって価格が違うのは当たり前で、インターネットで比較して安く買うのがもはや常識と言っても過言ではないです。

一方、書籍の価格はどの書店でも同じですし、ネットショップでも同じです。このことを疑問に思うことは少ないでしょうが、よくよく考えると不思議なことですよね。

なぜ書籍は価格競争が起きないのでしょうか。逆に考えると、多くの業界で価格競争が生まれているのはなぜなのでしょうか。

適度な価格競争が起こることは健全な証拠!?

価格設定を行う際、念頭に置くべき法律があります。それは独占禁止法第2条第9項第4号です。この法律によって『再販売価格の拘束』を規制しており、製造元が販売店に対して価格を指定することを禁止しております。

メーカーのカタログを見ると『オープン価格』と書かれていたりしますよね。具体的な価格が知りたいのに、『オープン価格』という謎の文言が書かれていると不親切にも感じますよね。

ところが、これには理由があって、独占禁止法によって製造元が価格指定出来ないので『オープン価格』と書いているのです。『オープン価格』というのは、販売店に価格設定を委ねているということなのです。

独占禁止法は『私的独占の禁止』と『公正取引の確保』を行うための法律であり、自由で公正な競争を実現することを目的としています。

つまり、適度な価格競争が起こることは、法律と照らし合わせると自由で公正な状態と言えますし、少なくとも日本社会においては健全な状態と言えます(過度な価格競争は不健全ですが……)。

そうであるならば、なおさら疑問は深まりますよね。書籍に関して価格競争が起きないのはなぜなのでしょう。

独占禁止法において書籍は特例!? 定価販売が原則!?

独占禁止法によって製造元が販売価格を指定することは規制されていますが、書籍はこの規制から除外されており、製造元である出版社が販売価格を指定できます。

具体的には、1953年の独占禁止法の改正によって『再販制度(再販売価格維持制度)』が加わり、書籍は再販売価格の拘束規制から除外されています。

このような理由によって書店でもネットショップでも定価で書籍が販売されていますが、この制度が加わった理由はなんなのでしょうか。書籍において価格競争が起きるとどのような弊害が発生するのでしょうか。

結論から言うと、書籍は基本的な文化資産であり、文化水準を維持するという観点において、価格競争が起こることは望ましくないということになります。定価販売によって、あらゆる書籍を平等に入手できるようにしているということになります。

例えば流通の関係において、輸送コストのかかる地方であれば都市圏よりも価格が高くなるといった弊害が発生する可能性があります。

これは一例ですが、具体的には日本書籍出版協会が以下のとおり説明しています。

再販制度が必要な理由は?

出版物には一般商品と著しく異なる特性があります。
①個々の出版物が他にとってかわることのできない内容をもち、
②種類がきわめて多く(現在流通している書籍は約60万点)、
③新刊発行点数も膨大(新刊書籍だけで、年間約65,000点)、などです。
このような特性をもつ出版物を読者の皆さんにお届けする最良の方法は、書店での陳列販売です。
書店での立ち読み 風景に見られるように、出版物は読者が手に取って見てから購入されることが多いのはご存知のとおりです。
再販制度によって価格が安定しているからこそこうしたことが可能になるのです。

引用元:書籍・雑誌の「再販制度」(定価販売制度)とは? / 日本書籍出版協会

再販制度がなくなるとどうなる?

読者の皆さんが不利益を受けることになります。
①本の種類が少なくなり、
②本の内容が偏り、
③価格が高くなり、
④遠隔地は都市部より本の価格が上昇し、
⑤町の本屋さんが減る、という事態になります。
再販制度がなくなって安売り競争が行なわれるようになると、書店が仕入れる出版物は売行き予測の立てやすいベストセラーものに偏りがちになり、みせかけの価格が高くなります。
また、専門書や個性的な出版物を仕入れることのできる書店が今よりも大幅に減少します。

引用元:書籍・雑誌の「再販制度」(定価販売制度)とは? / 日本書籍出版協会

このように再販制度はあらゆることを想定しており、あらゆる角度から議論が起きています。

インターネットが発展したので陳列できる商品数の制約が少なくなり幅広く偏りなく購入できるという意見があったり……再販制度を廃止すればインターネットで安く購入できるという意見があったり……。

再販制度が廃止されるとインターネット販売が主流になって町の本屋さんがなくなる可能性がさらに拡大するという意見があったり……。

1953年に加わった制度ですので『古い』と思われるかもしれませんし、古いからこそ弊害が起きていると思われるかもしれませんが、あらゆる議論が起きるとともに段階的に見直されたりもしています。

例えばですが、『年間購読の割引』といったような柔軟な価格設定が一部で行えるようになったりしています。

フランス・ドイツ・イタリアといったヨーロッパ諸国を中心として再販制度が法律や協定で定められていますので、それらの国々との比較により再販制度を見直すことも重要なことです。

一方、スウェーデン・フィンランドといった北欧の一部の国やイギリスでは再販制度が廃止されたという現状もあります。このような国々との比較も重要です。

※諸外国の書籍再販制度の比較表はこちらでご確認ください。

出版業界の売り上げは年々減少しているので再販制度を見直すことによって価格競争を適度に発生させることが必要なのかもしれませんし、一方、本屋という文化的空間を残すために再販制度を維持することも必要なことなのかもしれません。

何かを取れば何かを失う現状において、バランスについて考えることが大切であり、これは出版社や書店のみならず、利益を享受する読者も考えていきたいことなのかもしれません。

※独占禁止法について詳しく正確に知りたい方は公正取引委員会でご確認ください。