この絵本の内容紹介
絵描きのサルは、小さい頃から絵を描くのが大好きでした。
遠くの山や季節の花、時計台の絵を一日中描いても飽きないほどです。
ところが、絵描きのサルが大人になるにつれ、緑は次々と消えていき、代わりに高層の家が所狭しと立ち並ぶようになりました。そして、遠くの山は見えなくなってしまったのです。
絵描きのサルの隣の家は、最初は二階建ての家だったのですが、増改築を繰り返し、今では六階建てになりました。
大好きな美味しいものを蓄えておくために、もっと大きな背の高い家が必要だったのだとお隣さんは言うのです。
向かいに住む友達は、大好きな帽子をたくさん置いておくために、もっと大きな背の高い家が必要だったのだと言います。
絵描きのサルが大人になるにつれ、空いている土地は段々と減っていき、町の人々は空間を奪い合うように家を建てました。なかにはキリンの背中にまで家を建てた住人がいるほどです。
このようにして、この町から見上げる空は段々と小さくなっていくのでした。
そして、住人達はこの町のおかしな状況に嘆き始めます。外にいても小屋の中にいるようだ、空が見えないと目覚めが悪くてやる気が出ない……。
町の住人達はこの状況をどうしたものかと打開策を考え始め、ある住人が空を作ることを提案します。絵描きのサルに頼んで町中を空の絵でいっぱいにしようと言うのです。
そうして絵描きのサルのもとには空の絵を描いて欲しいという注文が入るようになりました。深い青や透き通るような淡い青、真綿のような白——様々な色を使って本物そっくりの空の絵を町中の家々の壁に描くことになったのです。
町の住人達は、空が見えないよりずっといい、茶色の壁よりも随分マシだと言って、評判のいい絵描きのサルに殺到して注文するようになります。
絵描きのサルは、自分の描いた絵で町のみんなが喜んでくれるのが嬉しくなって、注文があるたびに次から次へと空の絵を描きました。
ところがある日のこと、飛んでいた鳥が本物の空と見間違えて壁にぶつかってしまうのでした。そして、空の絵が町中を埋め尽くしていくごとに、このようなトラブルが増えていったのです。
サルは人気の絵描きとなり、前よりも大きな家に住めるようになって、前よりも美味しいものを食べられるようになりました。
ところが、空を作ることがこの町にとってより良い選択だったのか疑問を抱くようになり、空の絵を描くことに気乗りしないことが増えていったのです。
そして、絵描きのサルは描かれた空で埋め尽くされたこの町を出ていく決心を決めたのでした。
私たちの日常の中で、見上げると当たり前に広がっている空ですが、その当たり前がどれほどに大切なことなのかを描いたお話です。
空を作るということは一見すると素晴らしいアイデアなのですが、やはり最後は本物の空が一番だと思えることでしょう。
自分たちの食欲や物欲といった欲求を満たすために自然を犠牲にすることがどれほどに悲しいことか伝わってくるような、本当に大切なものは何なのかを改めて見つめ直してみたくなるような絵本です。