この絵本の内容紹介
「赤ずきん」は、ヨーロッパとくにドイツ、フランスを中心に広く伝わるむかし話です。
日本では、ドイツのグリム兄弟の収集した童話集のひとつとして有名です(本書も主としてグリムによりました)が、グリム兄弟が発表した1812年より100年以上も前に、フランスのペローがその童話集に収録しているのです。そしてこの話は、赤ずきんがおおかみに食べられたままの悲しい結末になっています。ペローは、この『赤ずきん』の教訓として、「ごらんの通り、まだ年のいかない人、ことに美しくてしとやかな若い娘さんは、やたらに人のいうことを聞いてはいけません。そのために、おおかみに食べられてしまうことも、めずらしくないのですからね。」と書いています。
そして、このペローの描く結末の方が、救出されるという非現実的なグリム童話より説得力があるとして、支持する人たちが多くいることも知っておきたいものです。
いずれにしても、この昔話が、世の中にはやさしいことばや、気に入るような甘言で近寄り、悪いことをする〈おおかみ〉がいることを教え、若い人は特に注意することを願って伝えられたものでしょう。単に言葉で警告するのではなく、楽しい物語の中にこどもたちを没入させ〈おおかみ〉の実体を無意識のうちに聞き手の胸にしみこませる。―こんなところにこの話を語りついだ人々の《やさしさ》が、そこはかとなく感じられるし、昔話の意味があるのだと思うのです。
しかも、〈おおかみ〉が他人ばかりでなく、時には自分自身の心にあることも示唆しています。心の中に巣食う〈おおかみ―悪への誘惑〉を、強い意志によって打ち克てるよう、これに類する秀れた昔話をこどもたちに語りつぐことは、大きな意義がありましょう。