この絵本の内容紹介
「一寸法師」がひとつの物語として定着したのは、室町時代の『御伽草子』にとりあげられてからです。しかし、元来が口伝えの昔話ですから、土地によって話の筋が少しずつ異なるほか、主人公の名前も岐阜県では指太郎、島原半島では豆太郎といったふうに違っています。また、本書では鬼退治する場所を清水坂でのことという伝承を採りましたが、『御伽草子』によると、三条宰相の姫君を連れて故郷難波に向かう途中、舟が鬼が島島に漂着して鬼退治することになっています。さらに、『御伽草子』では一寸法師の素姓を調べていくうちに、堀河中納言の孫という高貴な出であったことがわかって、官位を賜わるという結末になっていることを付記します。
ところで、現在わたしたちは一寸法師譚において《鬼退治・結婚・富の獲得》の三大要素を不可欠のものと思っていますが、実はこれらはみな最初からあったのではなく、話の展開を印象的にするために付け加えられたものなのです。つまり、「一寸法師」は桃から生まれた「桃太郎」や、竹から生まれた「かぐや姫」のように異常誕生をした“小さ子”の物語だったのです。ちなみに小さ子とは、神が童の姿で人間界に出現し、福徳をもたらすという当時の人々の信仰から生まれた産物です。
ともあれ、指ほどの小さな一寸法師が、御椀の舟に乗って京の都へ出立し、普通の人間でも太刀打できないような恐ろしい鬼を、その知恵と勇敢さで征伐してしまうことによって、一寸法師の強さをイメージづけ、小ささを忘れさせます。―この過程が、打出の小槌という如意宝によって一寸法師が凛々しい若者になったという事実で表現されたともいえるでしょう。そして、一寸法師の生涯が波乱に満ちたものであればあるほど、人々の抱いた夢は実現された“現実”として実感されたのではないでしょうか。