この絵本の内容紹介あらすじ

「しあわせのおうじ」は、1888年童話集『幸福な王子そのほか』の中で発表されました。

作者オスカー・ワイルド(1856~1900年)の作品に対する評価は従来まちまちで、とりわけ「しあわせの王子」をはじめとする童話に至っては毀誉褒貶がはなはだしく、「装飾過剰であり、甘っちょろいロマンティシズムが充満している」と酷評する者がいるかと思うと、その反対に「愛と献身、求道的人道主義とヒューマニズムに貫かれたこれら作品は、美しい一編の詩を読むが如きである」と絶賛する者がいるほどです。そしてワイルド自身はといえば、ダンディズムを自認し、胸にバラの花を飾り派手な色彩の服を着てパリの街を歩き、生活と芸術とにおいて豪華と絢爛を愛しながら、その最後を窮死で終えたのです。この現世での矛盾と主張とをわずかでも明らかにする手掛りとして、ワイルドが鼓吹した基本的な芸術観〈芸術のための芸術〉について記述したいと思います。

〈芸術のための芸術〉とは、〈芸術至上主義〉ともいわれ、ロシアのトルストイに代表される〈人生のための芸術→全世界の民族は平等であり、同情・献身・愛他的行為を目的とする芸術観〉と対立するものです。すなわち、芸術は芸術のために探求されるべきであり、それゆえ、社会生活となんら関係を持たず、むしろ社会的現実を軽蔑・無視して個人意識の中にとじこもり、理想を〈美〉におき、〈美〉の世界の実現を目的とする考え方です。<?p>

幾分かたくるしい話になってしまいましたが、たとえ長い間論争の的になってきたとはいえ、ワイルドの童話が、大人は大人なり、子供は子供なりに親しまれ読みつがれてきたのは事実です。〈本の価値は読者によって相違する〉という言葉がありますが、さしずめ「しあわせの王子」は、この言葉の意味を味わうに絶好の作品と思われます。