この絵本の内容紹介
「さるとかに」は、「猿蟹合戦」として知られる日本の代表的むかし話で、類話は秋田・佐賀・熊本などの各県をはじめ、広く日本全国に分布しており、さらに朝鮮・中国・蒙古などにも残っています。
私達が現在知っているようなストーリーは、江戸時代の赤本によって全国に流布し定着したもので、その原型は〈むかし話の宝庫〉といわれる室町時代末期にできあがったようです。「さるとかに」の特長は、「かちかち山」(第10巻)と同様〈敵討〉を主題としていることにあります。この時代の傾向としては単にむかし話のみにとどまらず、いわゆる〈復讐物文学〉と称される物語も数多く生みだしました。曽我兄弟の敵討を扱った「曽我物語」などは、その代表的なものです。
そもそも〈敵討〉という行為は、戦国時代の必然的結果として生みだされ、さらにその根底となる復讐心・義侠心が養成されるに至って以後、江戸時代に合法化されて明治時代初期まで存続することにより、日本の国民思想の一端を形成してきたようにも思われます。
さて「さるとかに」では、親を殺された子がにが首尾よくさるをやっつけて本懐を遂げますが、この話の中で重要なのは、主人公である子がにが〈非力〉だということです。その非力を救うため、義侠心に駆られたはち・くり・うすが助太刀として登場します。そして各々の特性を発揮し、見事に敵討を成功させるのです。これは、〈悪事をはたらいた者はそれ相応の懲らしめを受けるのが当然〉であり、その報復のためには動物や植物や物など、世の中のすべてが力を合わせて立ち上がる、という日本民族の伝統精神を如実に語っているように思われます。
誰にも親しまれる「さるとかに」は、日本の優れた〈寓話〉といえましょう。