この絵本の内容紹介あらすじ

「てんぐのかくれみの」は、九州・熊本地方に古くから伝わる〈とんち話〉『彦一ばなし』の中のお話です。

〈とんち話〉は、人間の持つ知恵や才能、ユーモアを主題とした話で、徳川時代のはじめごろに生みだされたといわれます。この本の主人公〈八代の彦一〉のほかに、豊後の吉四六さん・土佐の半七さんなど、その土地土地に主人公が存在しています。それから有名な一休さんや曽呂利新左衛門などがいます。

さて『彦一ばなし』には、二つの大きな特長が見られます。その一つは、この本の冒頭で述べた〈大岩を地に埋める〉という発想、すなわち〈現実に即した合理性〉であり、一つは、この本では紹介できませんでしたが、「槍の試合」という話の中で、〈槍の先生と試合をすることになった彦一は、野良着を着、肥びしゃくを構えて、こう言います。「これが私の槍です。たんぼで使うから、たんぼ槍です。」「臭くてかなわん!」と先生がいうと、彦一はすかさず「このたんぼ槍のおかげで、米も野菜も実ります。どうぞ百姓を大切にして下さい。」と頼むのです。〉このように、百姓である彦一が常に自分の立場を忘れずに、考え・行動していることです。これらが『彦一ばなし』の基礎といってもよいでしょう。

「てんぐのかくれみの」は『彦一ばなし』の中でも〈彦一の失敗〉を扱った特異な話といえそうです。ここでは〈とんち〉よりも、彦一の子供としての〈いたずら〉が主題になっており、結末での、頭をかきかき退散してゆく彦一に対するおとな達の寛容さが、話全体をほほえましくしています。また子供に対するおとなの観念と、おとなに対する子供のそれとが対比され、その中間に〈かくれみの〉に寄せる人々の願望や夢がまざりあっているのも興味深いところです。