この絵本の内容紹介あらすじ

「うらしまたろう〈浦島太郎〉」は、〈神婚説話〉として、古く『日本書紀』『丹後国風土記』などに記述されており、また『万葉集』にもその名が見えますが、源流は『古事記』の中の「海幸と山幸」であるといわれます。

「海幸と山幸」は、日本神話中の有名な物語として、現在も多くの人々に愛され親しまれていますので、内容の記述は省きますが、〈神人通婚(神と人間とが結婚すること)によって、海のかなたの理想国(常世)と交渉を持つが、タブーを犯すことにより破局に至る〉という筋立ては、両者に共通するものです。

もともと、このような〈神婚説話〉は、〈動物が人間の祖先である〉と信じていた民族が、〈じつは神が動物の姿を装っているのだ〉と解したことから発生したといわれます。この信仰(アニミズム=精霊崇拝)にはタブーが存在し、このタブーに絶対的な力を与えることにより〈生活を律する道徳の維持〉が図られたといわれます。

「浦島太郎」におけるタブーとは、いうまでもなく玉手箱であり、その意味するところも、上述した発生過程を考えるとき、おのずと判明するわけです。

今日の「浦島太郎」には、発生当時もっとも重要部分であった〈乙姫との結婚〉が省かれていますが、これも時代の流れがもたらした当然の結果といえましょう。

さて、現代においてなお私たちの心の中に生きつづける「浦島太郎」の魅力とは、一体何なのでしょうか。それは、物語を構成する多彩な要素にあると思われます。

動物愛護の精神、カメの恩返し、異郷への旅立ち、竜宮での何不自由ない生活、肉親愛、人間社会への捨てがたい愛着、望郷心、別離、破局、そして……今だに私たちを楽しませてくれる玉手箱。

「浦島太郎」には、夢と現実が巧みに織り込まれているのです。