この絵本の内容紹介あらすじ

「はなさかじじい花咲爺>」は、日本の代表的なむかし話で、北は青森から南は九州に至るまで、広く全国に伝わっています。

地方によって内容はさまざまですが、現在のような形式になったのは室町時代末期(いわゆる戦国時代)から江戸時代初期にかけてであろうといわれています。

この時代には、当然のごとく世の中は乱れ、人心は荒廃し、民衆はおのれ一人の利害にのみ眼を奪われていたのです。すでに「かちかち山」(第10巻)の解説中で述べたようにむかし話が歴史の流れの中で生まれ語りつがれてきた>ことを考えるとき、「花咲爺」もまた、戦国の世を反映し、時勢的考慮のもとに生みだされ生きつづけてきたとしても不思議はありません。

また、同様の話は中国にもあり、おじいさんが花を咲かせる場面では、日本の桜や梅に対し、牡丹や桃や李など中国の人々が愛好する花を咲かせているのは、お国柄が出ていて興味深いところです。

さて「花咲爺」では、正直で表裏なく生きる誠実な者には栄光や富貴がもたらされ、その反対に他人を羨む欲ばり者には、厳しい罰がくだされています。このことはとりも直さず、善人と悪人とを対比させながら物羨みの戒め>を主題とし、人心の荒廃を救う手段として分相応の生き方>を、民衆に示唆(あるいは強制)しているように思われるのです。

もちろんこうしたこととは別に、今日まで「花咲爺」が日本の代表的むかし話として語りつがれてきた大きな理由として、そのストーリーの明快さとともに、華やかさと楽しさがあったことは、いうまでもありません。