この絵本の内容紹介あらすじ

「かちかちやま」は、「桃太郎」「花咲爺」「さるかに合戦」「舌切雀」とともに日本の〈五大むかし話〉の一つに数えられているお話です。

もともとは、おばあさんが死ぬ部分と、敵討の部分とが分かれていたと伝えられており、現在のように〈敵討〉を強調した筋立ては、室町時代の末期頃にできたといわれています。この話の主題となっている敵討は、江戸時代になると完全に合法化されて、以来明治13年に禁止されるまでのあいだに、実に数多くの敵討にまつわる史実が残されました。

こうした背景のなかで「かちかちやま」における〈敵討〉は語り伝えられてきたのです。ある時は〈勧善懲悪思想〉徹底のため、ある時は〈武士の道徳意識と武家権力の権威〉を守るため、その他〈暴力に対する知恵の尊さ〉〈義侠心の高揚〉等のために、もっとも手軽な題材として利用され、語りつがれてきたのです。

そこでこの本では、すでに敵討が存在しなくなった現代に視点を置き、角度を変えて、この物語をとらえてみました。ここに登場する人物・動物で、悪意を持つ者はいません。にも拘わらず、おばあさんは死に、タヌキも殺され、おじいさんもウサギも、あと味の悪さを残します。これは一体、何が原因なのでしょうか。

小さないたずらが、とてつもない大事を引き起こすことは、よくある事です。こうした時、その被害を最小限に止めるために〈事実〉を追求する必要があります。この話の中にも、おばあさんは過失致死であったと判明する部分がありますが、この〈事実〉をおじいさんは適切な行動に生かすことができませんでした。

「かちかちやま」は現代においては、悲劇物語なのかも知れません。