この絵本の内容紹介あらすじ

「いなばのしろうさぎ」は、出雲系神話の英雄神、大国主命が登場する神話で、『古事記』上巻に記述されています。

『古事記』は上中下3巻から成り、和銅5年(712年)太安万侶によって、元明天皇に献上されましたが、これ以前に天武天皇により『古事記』編さんの着手はなされていたのです。当時豪族諸家には、『帝記〈皇族の系譜を記したもの〉』や『本辞〈神話・伝説・物語などの説話を記したもの〉』が伝わっていましたが、これらの内容がまちまちだったので、整理して正しいものを後世に残そうというのがその理由でした。そこで天武天皇は、稗田阿礼という舎人(天皇の近侍者)に命じて『帝記』や『本辞』を暗誦させ、これを後になって太安万侶が採録したわけです。

ところが『古事記』編さんの真意は他にあったのです。すなわち、『古事記』を著すことによって〈世襲的君主としての天皇の地位を神の名によって正当化しよう〉としたわけです。天地開闢からはじまって、神々の出現、国土の成立などを説きながら、天皇の地位の由来を述べているわけで、このあたりに古代国家成立時代における統治者の〈たくましい支配欲〉が感じられ、実に興味深いところです。

さてこの本では、白兎を助けた大国主命が首尾よく八上姫を嫁にするところで終っていますが、実は、大国主命が国家平定のためにさまざまな苦難をする、その冒頭にすぎないのです。この話のあとに、兄神たちのひどい仕打ち、黄泉の国でのはげしい試練が待っているのです。また、この本に登場するワニは、ワニザメ(フカの一種)ともいわれています。いずれにしろ「いなばのしろうさぎ」で重要なのは、大国主命の名によって、人間や動物のための治療法を教えたということでしょう。