この絵本の内容紹介あらすじ

昔あるところに、ワルターという貧乏な男がおり、リンゴの木を一本だけ持っていました。そのリンゴの木の葉は、つやつやとした緑色で、虫一匹も付いていません。幹も丈夫でした。

ところが、この木にはリンゴが実ったことがありません。ましてや花さえも咲いたことがありません。春になるたび、ワルターは隣の庭を見て悲しい気持ちになりました。そこには、見事に花が咲き誇るリンゴの木々が並んでいたのです。綺麗な花々は日の光を浴びてキラキラと輝きます。

秋になると、他所の庭ではリンゴが実りました。そして、どの人もリンゴの詰まったカゴを背負っています。ワルターは、リンゴの木々を見掛けるたびに羨ましく眺めました。

そうするうちに、ワルターはすっかり悲しくなってしまいます。夜になると、ベッドの中で色々と考え事をしてしまい、最後はこのように祈りました。

「ひとつで いいから、うちのきにも リンゴが なりますように。そんなに りっぱな みでなくても いいのです。ひとつで いいから ほしいのです」

その切実な祈りは、ある年の春に叶いました。夜、ワルターのリンゴの木に素敵な花が一輪咲いたのです。朝を迎え、ワルターがその花を見つけるとパッと目を輝かせました。そして、ぴょんぴょん跳ねて大喜びしました。

それからというもの、ワルターは昼も夜も花の番を続けました。山から冷たい風が吹けば手をかざし、強い日差しが照りつければ手で影を作り、そうして夏を迎えると、そのリンゴの花は小さな実になりました。

日が経つにつれて、リンゴの実はますます大きくなり、秋になるといよいよ収穫の時期を迎えます。それでも、ワルターは大きくなったリンゴの実をすぐには収穫しませんでした。あと一日、あと一日……そうやってリンゴがもっと大きくなるのを待ったのです。

「や、や、や! なんて おおきな リンゴだろう!」

道行く人々は、ワルターの大きなリンゴを見るたびに、驚いて立ち止まりました。そうして注目されるうちに、ワルターは心配が募りました。誰かに取られはしないかと不信感を抱くようになってしまったからです。

そんなある日、ワルターはとうとうリンゴを収穫し、市場に運ぶことにしました。ところが、そのリンゴを運ぶのは容易ではありませんでした。汽車で運ぼうとしても入り口を通れず、背負って運ぶしかなかったのです。

それでも、ワルターは一生懸命に背負って運びました。どんなに高く売れるかを想像すると楽しみで力が湧いたのです。

絵本「おばけリンゴ」の一コマ

そうして市場に到着すると、ワルターのリンゴの前には大勢が詰め掛けました。ところが、そのリンゴに対する人々の評判は悪いものばかりです。

「うそつきめ、ごろつきめ、ほらふきめ! こんな おおきな リンゴなんて、みたことない。これが リンゴだなんて、うそつくな!」

このような罵声を浴びせる者もいれば、からかう者も大勢いて、あれやこれや言うのに飽きると去ってしまいました。そのリンゴに目を止める人はもう誰もいません。こうしてワルターはすっかり惨めな思いをしてしまいます。

絵本「おばけリンゴ」の一コマ2

夜になってもリンゴを買ってもらえず、ワルターはとうとう諦めて家に帰ることになりました。重たいリンゴを背負って、来た道をまた戻らなければなりません。その日以来、ワルターの楽しい毎日は、情けない毎日へと変わってしまいました。

一方で、この頃から恐ろしい龍が国中を暴れまわっていました。田や畑を荒らし、作物を食い尽くすほどです。人々の不安は募るばかりでした。

「みなのもの、いいか、なんとかして あのリュウを やっつけるんだ。しばるか、ころすか、でなければ なんでも いいから、おくりもので うまく だまして おっぱらってしまえ。」

ある日、王様は秘密警察を呼び出し、そう命令すると……。最後は、ワルターの大きなリンゴが意外な方法で活躍します。さて、その意外な結末とは。