この絵本の内容紹介
発芽して間もない細いねぎを『芽ねぎ』と言います。柔らかさ・ピリッとした辛さ・爽やかな匂いが特徴的で、お寿司屋さんでも使われる人気の野菜です。
このお話の舞台は、芽ねぎを栽培する農園。登場するのは芽ねぎ農家の鈴木さんと特別支援学校の山田先生、それから『あかさん』と『あおさん』と呼ばれる二人の生徒です。
障がい者は働けない……
鈴木さんは芽ねぎ農園の13代目。400年も続く歴史ある農園で働いています。
ある日のこと、特別支援学校の山田先生が二人の生徒を連れて農園に来ました。
そして……
「すずきさん、せいとたちを めねぎのうえんで はたらかせて もらえませんか?」
その相談を聞いた鈴木さんは困惑しました。心に浮かぶのは消極的な考えばかりです。
「このこたちが うちで はたらくだって? うちの めねぎは、おいしいだけでなく、みためや かたちも うつくしい ブランドひん なんだぞ。」
「ひだりのこは なんだか ぼんやりしてるし、みぎのこは ゆっくりしていて、ふたりとも たよりない。」
「このこたちに うちの めねぎを そだてられる わけがない。さて、どういって ことわろうか?」
芽ねぎを育てるには長年の訓練が必要です。素早く正確な作業が求められるのです。
鈴木さんは芽ねぎの植え込みを実際に見せ、作業の難しさを説明しました。
そうすることで、「これはうちの生徒には無理ですね……」と察してもらうことにしたのです。
『あかさん』と『あおさん』は働けることに!?
「すずきさん これ つかえませんか?」
1週間後、山田先生は下敷きを持って再び農園にやって来ると、その下敷きを使って芽ねぎを植え込みました。
「ガーン」
「なんてこった!」
山田先生の行動を見て、鈴木さんはショックを受けました。芽ねぎの植え込みは難しいはずなのに……下敷きを使うと簡単に出来てしまったからです。これまでの常識が覆されてしまったのです。
そんなこんなで、二人の生徒は試用で働けることになりました。ぼんやりした『あかさん』はトレー洗いを、ゆっくりの『あおさん』は掃除と草取りを任されます。
ところが、あかさんもあおさんもとにかく作業が遅く、一向に仕事が終わりません。
鈴木さんの最初の予想通り、障がい者が農園で働くのは困難なのでしょうか……。鈴木さんは困り果てて山田先生に相談すると……またも自分の常識が覆されることに——
この絵本は、静岡県浜松市の京丸園という芽ねぎ農園での実話をもとに描かれました。
芽ねぎ農家の鈴木さんは、これまで障がい者と話したこともなければ、関心を持ったこともありませんでした。最初は山田先生の相談を断ろうとしていましたが、障がいのある二人の生徒と関わるうちに考えを大きく変えることになります。
「ガ、ガ、ガーン」と鈴木さんは繰り返し衝撃を受けることになりますが、その感銘混じりの衝撃は何度見ても痛快です。
そして、これらのきっかけから20年、京丸園はさらなる発展を遂げることに!?
巻末には当事者の声(『この本を読んでくれたみなさんへ』『めねぎのうえんで働くみんなから』『京丸園の3つの秘密』)が収録されており、障がいへの理解が一層深まります。