この絵本の内容紹介
ねずみのジェラルディンは、音楽を聴いたことがありません。ジェラルディンが耳にするのは、人間の生活音や動物の鳴き声ばかり。そんなジェラルディンが住んでいるのは、空き家の納屋です。
ある日、空き家の台所の隅で、ジェラルディンは大きなパルメザン・チーズを見つけました。さっそく、納屋の秘密の隠れ家に運ぶことにするのでした。
ところが、ジェラルディンだけで運ぶには大き過ぎます。そこで、仲間の手を借りて運ぶことに——。
「もし はこぶのを てつだって くれたら,みんなに たっぷり ひときれ ずつ あげるわ」とジェラルディンは提案しました。
チーズが大好きな仲間のねずみ達は、その言葉を聞いて大喜び。押したり、引っ張ったり、引きずったり、どうにかこうにか台所から運び出します。
そうして納屋の隠れ家に着くと、ジェラルディンはチーズの上によじ登り、約束通りに仲間のねずみ達へ配りました。
チーズの彫像
仲間のねずみ達がチーズを持って帰る一方で、ジェラルディンは不思議なことに気づきました。なんと、切り出したチーズの中から二つの耳のような形が現れたのです。
仲間のねずみ達が帰った後も、ジェラルディンは夢中でチーズを掘りました。そして、信じられない光景を目の当たりにします。
チーズから出てきたのは、ねずみの形をした彫像だったのです。しかも、その全容はフルートを吹くねずみの姿でした。
ねずみの吹くフルートは、よく見ると尻尾の先。このチーズの彫像は、尻尾の先をフルートのように吹くねずみの姿だったのです。
ジェラルディンは、この不思議な彫像を固唾を飲んで眺めました。そして、日が暮れるにつれて眠りに落ちてしまいました。
音楽との出会い
突然、聴いたこともない音が響き、ジェラルディンは目を覚ましました。その音はチーズの彫像から聞こえてくるようです。暗くなるにつれて、音はますますハッキリと聞こえました。金と銀の糸が、空中を漂うような美しい音色を響かせるのでした。
「おんがくだ!」
ジェラルディンは音色の正体に気づきました。これほど美しい音色は、音楽に違いない。そう考えたのです。そして、日が昇るまでの一晩中、その音楽に聴き入りました。
ところが、日が昇り始めると、フルートの音色は段々と小さくなり、最後は消えてしまいました。このフルートの音色は、夕暮れから夜明けまでの間だけ、鳴り響くものだったのです。
それ以来、ジェラルディンは、そのフルートの音色に夢中で聴き入りました。昼間になっても耳に音が残るほどです。
ジェラルディンはフルート奏者!?
そんなある日、仲間のねずみ達に出会うと、みんなは参っていました。食べ物に困っていたのです。
仲間のねずみ達にチーズを分けて欲しいと頼まれますが、ジェラルディンは断らざるを得ませんでした。
「だって・・・なぜって・・・あれは おんがくだもの!」
ジェラルディンはそう言って弁解しましたが、仲間のねずみ達には意味が理解できません。「おんがくって なにさ?」と責め立てられてしまいました。
そうしてジェラルディンは考え込むと、厳かに自分の尻尾の先を持ち上げました。それから、すぼめた唇に尻尾の先を当てて、深く息を吸い込んで吹きました。
その様子は、まわりから見れば尻尾の先に息を吹きかけているだけ。ジェラルディンの不思議な行動に、仲間のねずみ達はお腹が痛くなるほど大笑いしました。
ところが——、やがて美しいフルートの音色がジェラルディンの口元から鳴り響き……。
ピクトブック編集部の絵本談議
彫像から音楽が響くのは奇跡的な話だけど、ねずみ達の喜びや怒りは人間と同じような気がするね。
うんうん。
嬉しいことがあれば喜んで、辛いことがあると怒って、理解できないと笑い者にして……。人間の世界と似ている部分があるのかもなぁ。
「レオ=レオニの物語は、私たちの身近な現実に根を下ろしている」
この絵本を翻訳した谷川俊太郎さんは、こう言ったんだよね。物語が現実的な要素を含んでいるからこそ、子ども達の想像力に通ずるものがあるって考えたんだよ。