この絵本の内容紹介
桜の咲く三月の晴れた朝、僕は生まれました。
田舎からはお爺さんとお婆さんが「めでたい、めでたい!」と鯛を持ってきました。
その頃の僕は、九月に始まった中国との戦争が侵略戦争だったとは知りませんでした。朝鮮を植民地支配して、反対する人々を牢屋に入れたり、殺したりしていたことも知りませんでした。
僕は何も知らないまま大きくなって、小学一年生になりました。入学式の日には、校庭に桜が咲き乱れています。
国語の教科書の最初のページは、桜が題材。「さいた さいた、さくら が さいた」と音読するのです。
それから次のページは、「すすめ すすめ、へいたい すすめ!」と兵隊が題材です。
ある日、近所の床屋に赤紙が届きました。床屋の勝山三郎君は兵隊になって戦地へと赴きます。僕達は、「バンザーイ!」と旗を振って見送りました。
こうして戦争は激しさを増し、誰にも止められないほどになりました。先生も、ラジオも、本も、新聞も、「正義の戦争、聖戦ばんざい!」の一色。
僕も例に違わず、軍国少年に育っていきました。お国のために死ぬことに何の疑いもなかったのです。
そしてまた春を迎えると、桜の花が咲きました。ところが、お花見をする人は誰もいません。
「さくらの花のように、美しく ちれ、ちれ!」
「お国のために 死ね、死ね!」
お花見の代わりのように、桜の花は軍歌になって町中に溢れました。
やがて、アメリカの飛行機が大量の爆弾や焼夷弾を落とし、町も工場も桜の花も焼き尽くしてしまいました。
沖縄で敗れ、広島と長崎では原爆が投下され、日本は終戦を迎えました。その年、僕のお父さんは病気で亡くなりました。
残されたのは子ども五人と祖母と母。七人の大家族に、生きていくのも辛いほどの貧乏が押し寄せ……。
戦争が正当化されていく恐ろしい様子を、少年の成長とともに綴る物語です。戦争に行って花のように散ることを誰も疑問に思わない時代があったのです。主人公の少年も国のために死ぬ覚悟が本気であったほどです。
戦争がどれほど空虚なものであるかが伝わることでしょう。そして、二度と戦争を起こしてはいけないと実感するはずです。
この絵本は、日本・中国・韓国の絵本作家が描く平和絵本シリーズの一冊です。童心社(日本)、訳林出版社(中国)、四季節出版社(韓国)の三社共同で出版されました。
かつて敵国として戦争を行った国同士が、過去の遺恨を乗り越えて、今度は手を取り合って平和への願いを綴ります。