この絵本の内容紹介
お笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣(にしの あきひろ)氏が初めて手掛けた超大作の絵本です。物語はオムニバス形式の4部構成で展開され、星をテーマにファンタジーの世界を描きます。
1部:グッドモーニング・ジョー
丘の上の天文台には、グッドモーニング・ジョーという名前の銀歯のおじいさんが暮らしていました。一日中、おじいさんは望遠鏡で星を眺めては笑みを浮かべます。そんなおじいさんを街の人々は気味悪がり、誰も天文台に近づこうとはしませんでした。
ところが、街に暮らすケンヂという少年は、そのおじいさんに興味津々。おじいさんの存在を知ると、他の人々が止めるのも聞かずに天文台に入ってしまうのでした。ケンヂは、興味のあることに一直線な性格なので天文台のおじいさんのことが気になって仕方がなかったのです。
天文台の上では、おじいさんが相変わらず望遠鏡を覗き込んでいます。ケンジはおじいさんに近づいて何を見ているのかを尋ねますが、「星だよ」と無愛想な返答しかありません。続けて、星ばかり眺めて飽きないのかと尋ねますが、「飽きないね」とやはり無愛想な返答しかありません。
その無愛想な態度に気を悪くしたケンヂは、「見ているだけでよく飽きないね」と捨てゼリフを残して帰ろうとしました。するとおじいさんは、見ているだけでなく星で遊んでいるのだと返答するのでした。
そんなおじいさんの言葉に引っ掛かりを感じていると、夜空に浮かぶ青い星を見るようにと促されます。そして、おじいさんに言われたとおりに青い星を見た次の瞬間……青い星がタイミングよく夜空を流れていくので驚きを隠せません。
なんと、おじいさんの正体は星空コーディネーター。おじいさんの特別な望遠鏡に映った星は、手で掴むことができると言うのです。そして、青い星は偶然夜空を流れたのではなく、おじいさんが意図的に流したのでした。
おじいさんに気を悪くしていたケンヂですが、おじいさんの正体を知ると目を輝かせて興味が止まらなくなります。それ以来、おじいさんとケンヂの二人の距離はぐっと近づき、交流が深まっていきます。ケンヂは毎日おじいさんのもとを訪ねるようになるのでした。
ところが、二人の楽しい日々は長くは続きませんでした。ある日、いつものようにおじいさんのもとを尋ねますが、そこにいるはずのおじいさんの姿が見当たりません。おじいさんは前日の夜に亡くなってしまったのでした。
おじいさんの生前の夢は、星をさわるだけではなく、実際に月に行くこと。いつかロケットを作って月に連れていくと、ケンヂはおじいさんと約束を交わしていたのです。
しかし、おじいさんが亡くなってしまってはその約束を果たすことができません。ケンヂはおじいさんとの楽しい日々を思い出すと涙が止まりません。ところが、ふとケンジが星空を見上げると……。
ケンヂは意外な方法でおじさんとの約束に取り掛かることになります。
2部:赤いハシゴ
広い宇宙のあるところにミル・フイユという小さな星がありました。人口に対して星が小さく、住人たちは土地の問題に悩まされていました。その結果、縦に幾重にも重なる建造物を建築し、どこへ行くにもハシゴが必要な状況となったのです。
そんな星でトキオ・ジェイコブという男が長年に渡ってハシゴ屋を営んでいました。トキオの作るハシゴは赤色なのが特徴で、カラフルというのが評判で売れ行きは順調でした。ところが、近頃は移動が楽で便利なリフトの開発が進み、ハシゴは売れなくなってしまったのです。
トキオはハシゴが売れずに退屈な日々を送るようになります。そして、蔵には売れ残った赤いハシゴが山積みになっているので悩みのタネは尽きません。
そんなある日の晩、トキオが夜空の星を眺めていると、青い星が突然と急接近してきたのです。ミル・フイユで暮らす住人たちは大騒ぎし、記念撮影をする人もいれば祈る人も出てきました。
翌日の朝になると青い星のことがトップニュースとして扱われ、ジャーナリストは天変地異だと分析します。星クッキーや星饅頭、キャラクターまで登場し、青い星に関連した商売も始まり、お祭り騒ぎの状態です。星の住人は、少しでも近くで青い星を見物しようと、こぞってリフトに乗り込み高いところを目指します。
お祭り騒ぎも冷めやらぬある晩のこと、トキオが青い星を眺めていると微かに太鼓を叩くような音が聞こえてきました。空耳かと疑ってみるトキオですが、確かに太鼓を叩くような音が聞こえるのです。
しかし、誰に聞いても青い星から太鼓を叩くような音は聞こえてこなかったと言います。誰にも相手にされなかったトキオですが、音の正体を確かめるために青い星に行ってみたいと思うのでした。
ところが、ハシゴ屋のトキオが宇宙ロケットを持っているはずもなく、青い星から聞こえた音の正体を確かめたいという想いばかりが募ります。トキオはどうしたものかと悩んでいると、突然あることをひらめき、蔵へと一目散に駆けて行きました。
そして、山積みとなった赤いハシゴを蔵から引っ張り出すと、ハシゴ同士を縄や釘でつなぎ合わせ、大きなタワーを建設し始め……。
トキオのひたむきな姿をとおして諦めないことの大切さが伝わります。
3部:ドンドコ山のバケモノ
ある星のある村のはずれにドンドコ山という山があり、ヤクという恐ろしいバケモノが住んでいました。
ある晩、その星では夜空の星が一斉に流れるという不思議な出来事がありました。そしてちょうどそのころから、ヤクは隣の星まで聞こえるのではないかというほど大きな音で太鼓を叩くようになったのです。
村人たちはその大きな音に迷惑しており、名高い侍や腕利きの猟師がヤク退治に出掛けましたが、みんなヤクに食べられてしまうのでした。
そんなある日のこと、一人の少女が届け物をするためにその村に向かっていると、ドンドコ山に迷い込んでしまいます。そしてあたりが暗くなったころ、少女の目の前に恐ろしい姿をしたヤクが現れました。しかし、少女はヤクの姿に怯えることもなく、平然とした様子です。
そんな少女の様子に、ヤクは調子を狂わされながらも、届け物を差し出すように爪を立てて脅します。ところが、少女は怯える様子もなく平然とした様子でヤクの要求を断るのです。
さらには、道に迷ったので村まで連れて行ってほしいと少女がお願いするのでヤクは呆気にとられてしまいます。
ヤクは自分のことが恐ろしくないのかと少女に尋ねますが、少女は恐ろしくないと答えます。それから、人を信じられなくなることのほうがよっぽど恐いのだと平然と答えるのでした。
そんな少女の様子にヤクは困惑し、しどろもどろしてしまいます。一方、少女は村の人々が眠りに就くまでに届け物を持って行きたかったので先を急ぐことにするのでした。
ところが、少女が足を進めた方角は村の正反対。ヤクはつい口走り、少女に村の方角を教えてしまいます。すると、ヤクの優しさに少女は笑みが溢れました。ヤクは生まれて初めて笑顔を見て、なんだかポカポカした気持ちが芽生えます。ヤクは自分の醜い姿が原因で、誰にも優しい表情を向けられたことがなかったのです。
ヤクは少女を食べる気持ちを失い、早く山を下りるようにと促します。ところが少女は、山を下りる方法がわからないのでヤクに付いてきて欲しいと改めてお願いしました。しかし、ヤクは訳があって村まで連れていくことができません。その代わり、太鼓の音を背にして歩くようにと少女に伝えます。
ヤクは、温かい気持ちを少女に返そうと太鼓を一生懸命に叩きます。そして、少女は順調に村へと向かっていくのですが・・・。まさかヤクの太鼓が破れてしまい音を出すことができなくなりました。
少女は足を止めて不安な気持ちが募ります。ヤクはそんな少女が心配でたまらなくなり……。
切なくも温かい少女とヤクの友情が描かれます。
4部:Dr.インク
眠ると夢が始まります。自分の意思とは関係無しに夢の中のお話は展開されますが、そもそもそのお話は一体誰が作っているのでしょうか。
世界の奥のそのまた奥に、どの脚本家よりも忙しいDr.インクという脚本家が暮らしていました。Dr.インクが書くのは世界の人々が夢の中で見るお話の脚本なのです。
世界中の人々となると膨大な量の脚本を書かなければなりません。そのため、脚本を書ききれないこともありました。もし脚本を書ききれなかった場合は、その晩に夢を見れない人も出てくるということなのですが、Dr.インクはとても忙しいのでそれは仕方がないことなのです。
また、Dr.インクにはマルタ・サンポーニャというたくさんのアシスタントがいます。サンポーニャ達の仕事は、Dr.インクが書き上げた脚本を専用の機械にとおしてアメ玉に詰め込むこと。それから、世界中、宇宙中を飛び回り、眠りに入った人々の口の中にそのアメ玉を放り込むことです。
サンポーニャ達は目が悪い代わりに耳が良く、配達の時間になると耳を立てて「おやすみなさい」が聞こえた方向を目指して走ります。毎晩、そうやってDr.インクとサンポーニャ達によって夢のお話は届けられるのです。
ところがある日、Dr.インクが体調を崩して寝込んでしまったので世界中の人々は夢を見ることがなくなりました。夢を見れないと言っても数日であれば誰も気にしません。それでも、1〜2週間を過ぎると異変に戸惑う人々が現れ始めるのです。
世界中の人々が夢を見なくなるとどうなってしまうのでしょうか。特に犯罪が増えたわけでもなく、人々が特に暗くなったわけでもありません。ただ、なんだか寂しくなってしまうのでした。
世界中の人々が再び夢を見るためにはDr.インクに元気になってもらうしかないのですが、薬も効かず回復の兆しはありません。
そこで、Dr.インクが元気になるようにサンポーニャ達は流れ星に願いを託すことにします。ところが、流れ星の流れは速く、流れ星が流れる間に三回の願いを唱えることができません。サンポーニャたちは屋根の上で辛抱強く、流れ星に願いを託そうと試みますが、どうしてもうまくいかないのです。
そんなとき、サンポーニャの一人があることを思い出しました。アメ玉の配達先に流れ星を操る人がいたと言うのです。そこで、流れ星をゆっくり流してもらえるようにお願いしに行くことにするのでした。
4部構成の物語は、それぞれ単体でも読み応えがありますが、実はそれぞれの物語がそれぞれの物語に関連し合っているのです。
例えば、「グッドモーニング・ジョー」で青い星を動かすお話と「赤いハシゴ」で青い星が急接近するお話がそうです。「Dr.インク」でサンポーニャの特徴を描いたお話と「ドンドコ山のバケモノ」で目が悪いサンポーニャがヤクの姿を捉えられないお話も関連しています。他にもたくさんの関連性がある絵本なので、どことどこが関連しているのかを探してみるのも一つの楽しみになることでしょう。
また、極細のモノクロペンを使って5年の歳月を経て描かれた超大作のこの絵本は、1ページ1ページのイラストも細部まで見どころたっぷりです。