この絵本の内容紹介
北海に浮かぶ小さな島チロヌップ。きつねたちと人々の暮らしを、やがて戦争が…。
人間ときつねに生まれた強い絆
江戸時代、北の孤島チロヌップで、与平の娘さくらときつねのチロは、きょうだいのようにくらしていました。しかし、ある夏の日、さくらは突然、息をひきとります。人間ときつねに生まれた強い絆を描いた絵本。
■□■作者・たかはし ひろゆきさんからのメッセージ■□■
この物語の舞台は、絵本『チロヌップのきつね』『チロヌップのにじ』と同じく、わたしが戦争中すごした北海の無人島です。時代を、江戸のおわりから明治のはじめとしたのは、第一作『チロヌップのきつね』に出てくる娘じぞうのいわれをたどりたかったため、そして千島の歴史の原点に立ちたかったためです。
江戸時代、大名の家中と領地は藩と総称され、全国に散在していました。徳川幕府が、蝦夷地(北海道)の南端にある松前藩に命じて千島列島を探査させたのは1644年。その後、いくども探険が行われ、日本人も移り住むようになりました。ところが、1770年代にはいり、ロシア人がやってきて、全島に生息するラッコを捕りはじめました。そこで、日本はロシアと日露和親条約(1854年)を結び、さらに明治維新後、樺太・千島交換条約(1875年)を結んで、千島を日本の領土とする取り決めを交わしました。けれども、太平洋戦争を経た今日、この島々の帰属については、両国はまだ合意に達していません。
ひっそりと娘じぞうの立つ、チロヌップの丘──。さくらとチロ、そして与平夫婦の霊は、今、その丘の上で何を思い、何を待ちこがれているのでしょうか。
(チロヌップは、アイヌ語で「きつね」という意味です。)