この絵本の内容紹介
「こんな キバだから きっと おやも こわがって にげたんだ」
真っ黒なイタチには、お母さんもお父さんもいません。森に独りぼっちで悲しく暮らしていました。誰かがいつ遊びに来てもいいようにと、食べ物をたくさん集めていましたが、訪ねてくる者はいませんでした。
「いっそ、レストランでも ひらいてみるか」
真っ黒なイタチが開き直ったようにレストランを始めると、予想に反して、あっという間に人気店になりました。それでも、イタチはお客さんに怖がられるのを恐れて、いつも背中を向けていました。
そんなある日、谷の向こうからウサギのお嬢様がやってきました。冬の間だけ川が凍っているので渡ってきたのです。
「こんなに おいしい コーンポタージュを つくる コックさんは、わたしの おしろにも いません」
お嬢様がそう言うと、イタチは少しだけ振り向きました。それでも目が合うと、イタチはすぐにそっぽを向いてしまいました。鋭いキバを見られたくなかったのです。
ところが、お嬢様はそんなイタチのキバを恐れはしません。「わたしが こわいのは うさぎを たべる ワシだけですよ」と言って、ニッコリするのでした。
それ以来、お嬢様はたびたびレストランを訪れました。そして、そのたびにちょっとしたトラブルが起こりました。
ある日は、お嬢様の食事中にハチが飛んできて、イタチが追い払いました。またある日は、モモンガの坊やがジュースを溢してしまい、お嬢様がマントを貸しました。そして、その代わりにとイタチがお嬢様にコートを渡しました。
ある雪の晩、お嬢様はまたお店にやってきました。ところが、今回はひとりではありません。王子様を連れてやってきたのです。
「きみが すきな レストランだから きてあげたんだよ。はるの けっこんしきには そこの コックさんに ケーキでも やかせようか」
王子様はそう言って、気取った態度で食事をしていました。イタチはその言葉に怒ることはありません。ただただ悲しくなってしまったのです。
そうして、食事を終えたお嬢様達が帰ろうとしたころ、外では雪が強く降っていました。そんな空を見て、イタチは「にげろ!」と叫びました。空からワシが襲ってきたのです。
イタチはお嬢様達を逃がし、キバを使ってワシを追い払いました。ところが、その代償に深傷を負ってしまいます。冬の間中、その痛みは引きません。
それからやっと春が来ると、イタチは元気になりました。それでも心の傷は癒えないままです。イタチの悲しみは、お嬢様への想いからだったのです。お嬢様が王子様を連れてきたときに悲しくなったのは、そういうことだったのです。果たして、イタチのお嬢様への想いはどうなるのでしょう。