この絵本の内容紹介
案山子には足がありません。なので、来る日も来る日も同じ場所に立っていました。
世の中が広いということはカラス達から聞いて知っていましたが、実際に知っている世界は目の前に広がる田んぼだけでした。
街は人や車で溢れていること、大きな怪物のような乗り物が空を飛んでいること、海という大きな水溜まりがあること……時折カラス達から聞いたことは案山子の興味を惹くことばかり。
なによりの関心事は海の大きさでした。目の前の田んぼに比べて、海はどのくらい大きいのか疑問に思ったのです。
案山子は一度だけでも世の中を見てみたいと思いました。そして、心の中で祈りました。
「カミサマ ボクハ ヨノナカヲ ミテミタイデス」
空の神様、風の神様、それから田んぼの神様に祈り、試しにカエルの神様にも祈りました。
すると……案山子の前に意外な神様が……
「ぼん!」とカエルの神様が現れたのです。
「なんじゃなんじゃ? 世の中を見てみたいじゃと? ほう…… なるほど なるほど。そんなにいいところでも ないんじゃがな…… まぁ いいだろう そのかわり…… ここにはもう 帰れないかもしれんが よいかな?」
案山子は少し考え込んで、それから決断すると、改めて願望を伝えました。
「カミサマ ボクハ ヤッパリ ヨノナカヲ ミテミタイデス。」
カエルの神様は不思議な力を持っています。切実な願いを聞き入れ、案山子に足を授けたのです。
こうして案山子は自由になりました。歩けば歩くほど景色は変わり、その変化に喜びを噛み締めました。
「ヤッパリ ヨノナカハ ステキダッタンダ」
見上げた空はいつもの空とは違いました。風の香りもいつもと違いました。案山子にとって、見るもの感じることのすべてが新鮮でした。
どこまでも行けそうなウキウキとした気分で歩き続け、さらにはバスに乗って街へと向かいました。
このとき、案山子は希望に満ち溢れていました。世の中は嬉しいことや楽しいことがいっぱいで優しい人ばかりだと信じられるほどでした。
ところが……
世の中は嬉しいことや楽しいことばかりではありません。優しい人ばかりでもありません。田舎から都会に近づくにつれて窮屈に感じることが増えていくのでした。
果たして、案山子の旅はどうなってしまうのでしょうか。海を見ることは出来るのでしょうか。