この絵本の内容紹介
食肉センターに勤める坂本さんは、牛を解体してお肉にする仕事をしていましたが、この仕事が嫌で仕方がありません。もちろん、みんなが牛のお肉を食べるためにも大切な仕事であることは理解しているのですが、どうしても好きになれなかったのです。
ある日のこと、小学3年生の息子:しのぶくんの授業参観に坂本さんは行くことになります。
参観日は、社会科の「いろんな仕事」という授業。先生からお父さんの仕事はどんな仕事か尋ねられ、しのぶくんは小さな声で「肉屋です。ふつうの肉屋です。」と答えるのでした。
ところが夕方、しのぶくんが学校から帰ってくると自信に満ちた様子です。そして、「お父さんが仕事ばせんと、みんなが肉ば食べれんとやね」と言うのです。
しのぶくんは学校の帰り際に先生に呼び止められ、どうしてお父さんの仕事を「ふつうの肉屋」と言ったのかと尋ねられました。しのぶくんは、お父さんの仕事が格好悪いので「ふつうの肉屋」と答えたと言います。先生はそれを聞くと、お父さんの仕事がなければ誰もお肉を食べられない、お父さんの仕事は凄い仕事だと教えるのでした。
お父さんの仕事の凄さを知ったしのぶくんは、「お父さんの仕事はすごかとやね」と言います。しのぶくんのお父さんへの尊敬の眼差しに、坂本さんは辞めようと思っていた仕事をもう少し続けようと考えました。
ところがある日のこと、荷台に積まれた牛のもとへ女の子が駆け寄りました。その女の子は、「みいちゃん、ごめんねぇ」と牛に謝りながら悲しそうな表情を浮かべます。その女の子のおじいさんの話では、生活のためにも、ずっと一緒に過ごしてきた牛を売らなくてはならなくなったと。
坂本さんは女の子の悲しそうな姿を見て、さらに、おじいさんの話を聞いて、やっぱり仕事を辞めようと考えました。そして、坂本さんは明日の仕事を休むことにしたのです。
坂本さんは家に帰ると、みいちゃんと女の子の話をしのぶくんに話しました。すると、「心のなか人がしたら牛が苦しむけん。お父さんがしてやんなっせ」としのぶくんは言います。
そして翌日の朝、しのぶくんに説得された坂本さんは、いよいよ決意を固めて仕事場へ向かい……。
この絵本は、熊本市食肉センターに勤めていた坂本義喜さんが実際に経験したことをもとに描かれました。食卓に並ぶ牛肉がどこからどうやってやってくるのか、そして、「生命をいただく」とはどういうことかを描き出します。