この絵本の内容紹介
しんしんと冷える真冬の空に星が冷たく瞬いています。森に囲まれた農場では、すべての生き物が眠りに就き、月が夜空を歩みながら積もった雪を照らしています。
静かな冬の夜中に、ただ一人、目を覚ましているのが小人のトムテでした。トムテは、牧場を囲む遠くの森を見渡しながらぽつんと佇んでいました。
トムテは長い年月、こうして牧場の夜番をしているのです。トムテは、月を見上げながら難しい問題を抱えて困った様子ですが、気を取り直していつもの夜番の仕事に取り掛かります。
食料小屋と牛小屋を回り、戸口の鍵を確かめます。馬小屋や鶏小屋も回りますが、どの動物も楽しい夢を見ている様子です。
トムテが犬小屋に近づくと、犬のカーロは目を覚まし、尻尾を振っています。カーロとトムテは仲良しです。
トムテは、そっと母屋に戻ると主人夫婦を見回ります。それからトムテは最後に子供部屋に入っていきます。トムテの一番の楽しみは、可愛い子ども達を見守ることなのです。
この牧場で暮らす人々を昔から見守ってきたトムテの静かな冬の夜の営みを描いたお話です。トムテの思い煩いとは、人がどこからやってきて、どこへ去っていくのか……ということ。そんなトムテの思い煩いと北国の神秘的な夜を描いた幻想的な絵本です。
余談:トムテとは?
トムテは、北欧スウェーデンに伝わる小柄の妖精です。赤いとんがり帽子を被って、灰色の髭を生やし、尖った耳に、指は4本、灰色や濃紺のボロボロの服を着た外見であると言われています。
トムテは、食料小屋や納屋を住処とし、農家に幸せを運んでくるのだと言われています。トムテは、とっても力持ちで、夜にこっそり家畜の世話をしてくれる働き者の妖精なのです。
ところが、トムテは繊細で気難しい一面もあると言われています。干渉されることを嫌い、また、大切に扱わないと激しく怒ってしまうこともあるのだそうです。トムテが怒ると干し草を盗んで出て行ったり、仕返しに人間の耳を殴ったりするのです。
トムテを大切にし怒らせないためにも、ある習慣を守ることが重要だと言われています。クリスマス・イヴにはトムテのためにテーブルの上に食事を残したり、仕事の見返りとしてバターを入れたお粥「ユール・グロット」を納屋や戸外に供えるのです。
そうしてご褒美をもらったトムテは、農家に繁栄をもたらしてくれるのです。ただし、逆にご褒美をもらえなかったトムテは、物を壊したり、家畜を悩ませたりと、農家に災いをもたらすのです。
元々、トムテは農家に幸せを運んでくる妖精だと認識されていましたが、アメリカ文化(特に商業主義的なクリスマスの文化)の影響を受けて、スウェーデンにおけるサンタクロースのイメージが定着したと言われています。今では、トムテはプレゼントをくれる側ですが、それまではプレゼントをもらう側だったそうです。