この絵本の内容紹介あらすじ

「この世界の生活は、月にとっては一つのおとぎ話にすぎません」 ひとりぼっちの若い絵かきのもとへ、夜ごと友だちの月が訪れて、空から見たことを聞かせます。月のまなざしが照らしだすのは、悲哀に満ちた地上の人びとの風景。旅を愛したアンデルセンの詩情あふれる名作を、絵本作家・松村真依子の柔らかな水彩絵で贈ります。

■絵本作家 松村真依子さんからのメッセージ
『絵のない絵本』を読み解き、アンデルセンについて勉強し、たくさんの資料と向き合った制作の日々は、時代も国境も超えた色々な場所へ私を連れて行ってくれました。インドの川のほとり、ポンペイの劇場、名も無い町の寂しい窓辺や、愛に満ちた子ども部屋まで……私の体は家に籠って絵を描いていても、心はいつも旅にでていました。今思えば、月の物語の聞き手である「画家」と、同じことをしていたのですね。そんな、物語に入り込んでしまったような旅の日々が終わることが、寂しくてたまりません。ぜひみなさんも、この物語と共に遠くへ、ずっと遠くへ、心の旅にでかけてみてください。そしてアンデルセンや「画家」が見上げた月と同じ月を、見上げてみていただきたいです。

■編集部からのメッセージ
「旅することは生きること」と語ったデンマーク生まれの作家アンデルセン。名作『絵のない絵本』は、彼自身の旅の記憶と空想が幾重にも織りなされた、類いまれな物語です。主人公は空を渡る月。その視線の先にあるのは、幼い子や老女、詩人、喜劇役者、囚人、力尽きつつある白鳥……。月は彼らに共感するように優しく光をあて、切なき胸の内を代弁するが如く、若い絵かきに様子を物語ります。
情に厚く好奇心旺盛な月、月の訪れを待つ孤独な絵かき。芸術家アンデルセンは月であり、またこの若者であったのでしょうか。作家自身、月に心をはげまされた地上の一人だったのかもしれません。
本作品は長く岩波文庫で愛されてきました。大畑末吉氏のあたたかく美しい名訳が胸を打ちます。絵本作家の松村真依子さんは、アンデルセンという人物に心を寄せながら一筆ずつ想いを込めて、全33夜を見事に描きだしてくださいました。この愛蔵版をきっかけに、若いひとたちにこの美しい物語と出会ってもらえたら、そして夜空に浮かぶ月をいっそう愛おしく感じてもらえたら、うれしく思います。